作業着を持っていなかったコピーライターが、工場で教わったこと
工場へ行く二日前、私は作業着を持っていないことに気づきました。
製造業のコピーを書くと言いながら、です。慌ててAmazonの翌日便で注文しました。届いた作業着は、少し丈が合っていなかった。今思えば、あの居心地の悪さが大事でした。私はまだ、現場の外側にいたのです。
会議室で製品の特徴は聞いていました。何をする装置なのか。どんな仕組みなのか。資料も読みました。それでも、実機の前に立つと、聞いていた話とは違う情報が次々に入ってきました。
ヒアリングでは拾えなかった「音」

現場では、会議室の説明だけでは拾いきれなかった音と速さを、具体的に感じました。機械の稼働音。エアがワークへ当たる音。目の前で水滴が飛ぶ速さ。言葉で「速い」と聞くのと、実際に見るのとでは意味が違います。
後日、現場の情報を動画へ落とし込む段階で、演出より先に残すべき判断材料があると考えました。稼働音が重要なら音を残す。水切り性能が核心なら、水が飛ぶ場面を見せる。製品によって、守るべき情報は違います。
また、別の工場では作業者がどこで手を止め、何を確かめているかを見ることがあります。装置単体ではなく、その前後の仕事まで見て初めて、お客様が買う理由が分かるからです。
現場へ行くと、コピーは「考えるもの」から「拾うもの」へ変わる
机の前で「刺さる言葉」をひねり出そうとすると、文章はすぐ大げさになります。高性能。画期的。圧倒的。ところが現場には、そんな形容詞より強い事実があります。
- 水滴が残っていないワーク
- 機械が動く実際の音
- 作業者がどこで手を止め、何を確かめているか
- 清掃や切り替えにかかっていた時間
- 導入前に担当者が一番心配していた条件
これを、お客様が判断できる順番に並べます。きれいな動画より、判断できる動画。格好いいコピーより、導入後の仕事が見えるコピーです。
お客様目線は、会議室より工場に落ちている
お客様目線とは、やさしい言葉に直すことだけではありません。相手が導入後を判断できる材料を、先回りして渡すことです。現場には、その材料がたくさんあります。
営業は、お客様から出た質問を知っています。製造は、うまくいく条件と難しい条件を知っています。品質は、安心を証明する記録を持っています。三者の話を一つの現場で聞くと、会社の強みが急に立体になります。
現場訪問で、私が今も聞くこと
- この工程で、一番神経を使うのはどこですか
- 以前は、どんな手戻りがありましたか
- お客様が最初に疑うのは、どの性能ですか
- 導入後、作業する人の動きはどう変わりますか
- 動画で絶対に消してはいけない音や場面は何ですか
答えがすぐ出なくても構いません。機械を動かしながら話してもらうと、手の動きと一緒に言葉が出てきます。
少し丈の合わない作業着を着て、分かったこと
私は、その装置を設計した技術者ではありません。だからこそ、初めて見るお客様と同じ場所で「これは何だろう」「なぜここが大事なのだろう」と立ち止まれます。分からないことを格好悪がらず、聞く。それがコピーの入口です。
御社のホームページを次に直すとき、会議室だけで終わらせないでください。工場へ行き、機械の前で一つだけ聞いてみてください。
「この仕事で、お客様が一番喜ぶ瞬間はどこですか?」
その答えが、御社にしか書けない一文になります。


