展示会で会った町工場の社長。その諦めた顔が忘れられなかった

展示会で会った、ある町工場の社長の顔が、今も頭から離れません。

その会社は、商社から依頼された製品を開発しました。技術を出し、形にした。ところが、その後、製造はより安く作れる海外へ移されました。さらに権利関係も固められ、自分たちが生み出したものなのに、自由に作れない状態になったと聞きました。

※社名、製品、地域など特定につながる情報は伏せています。

私は、怒っている社長を想像していました。しかし、目の前にいたのは怒る力さえ使い切ったような人でした。声を荒らげることもない。「仕方がない」という顔でした。

技術を持っているだけでは、技術を守れない

展示会で会った町工場の社長。その諦めた顔が忘れられなかった

その話を、商社が悪い、海外が悪い、という単純な結論にはしたくありません。商社にも役割があり、海外生産にも合理性があります。問題は、町工場側に選択肢がほとんどなかったことです。

私はその話を聞きながら考えました。もし、自社の価値を自分たちの言葉で発信し、直接相談を受ける入口も持てていたら、選択肢を少しは増やせなかっただろうか、と。

もちろん、言葉だけで権利や取引の問題をすべて防げるわけではありません。あの会社に発信がなかったと断定することもできません。それでも、取引経路を一つ増やし、自分たちで価値を説明する力は、会社の選択肢を増やします。

お客様目線は、迎合ではなく自立のためにある

お客様目線というと、「相手の言う通りに安く作ること」だと誤解されることがあります。私は逆だと思います。

相手が何に困り、御社の技術でどんな未来へ進めるのかを、自分たちの言葉で示す。だから、値段だけで比べないお客様と出会える。だから、無理な条件には理由を説明し、断ることもできる。

お客様目線は、相手に媚びるためではありません。技術を必要な相手へ直接届け、会社の選択肢を増やすための考え方です。

下請けを否定したいのではない

長年の取引を守ることは大切です。元請けから任される仕事にも誇りがあります。問題は、一社、一つの流通、一つの値決めに、会社の未来をすべて預けることです。

直接取引だけが正解でもありません。商社だけに依存せず、直接相談を受ける入口も持つ。既存顧客を大切にしながら、新しい用途へ届く記事を一本ずつ増やす。選択肢を持つことが大事です。

会社の外に、技術の旗を立てる

設備一覧ではなく、「誰のどんな未来を変える会社か」を言葉にします。たとえば、大型加工ができる会社ではなく、分割設計と複数社発注に困る設備メーカーを助ける会社。微細加工ができる会社ではなく、狙った流量を安定させたい設計者を助ける会社。

旗を立てると、営業だけでなく採用にも効きます。若い人は、機械の名前だけでは仕事の意味を想像できません。誰を助ける技術なのかが見えれば、自分が働く理由も見つけやすくなります。

まず、過去の問い合わせを三件見る

新しい市場を考える前に、良かった問い合わせを三件だけ開いてください。相手は何に困っていたか。なぜ御社へ相談したか。どの判断や工夫が喜ばれたか。そこに、次の旗の材料があります。

あの社長の顔を、もう見たくありません。技術がないから諦めるのではなく、伝える言葉がないために諦める会社を減らしたい。

製造業の発信は、きれいなホームページを作るためではありません。会社が自分の技術と未来を、自分で選べるようにするための仕事です。